神戸地方裁判所姫路支部 昭和24年(ワ)196号 判決
原告 桜井正規 外一名
被告 兵庫相互銀行
一、主 文
訴外江見康興が被告との間に締結した無尽契約に基き被告に対し昭和二十四年五月十三日負担した
一、金額 金十三万二千五百円
一、期限 昭和二十四年五月二十五日を初とし支払済まで毎月二十五日限り一回金二千五百円宛五十三回に分割弁済し、右分割弁済を二回以上怠るときは分割弁済方法による期限の利益を失う。
一、遅延利息 金十円につき一日金七厘の割合
なる債務について、
原告桜井正規は被告に対し連帯保証債務を負担しないことを確認する。
被告は原告桜井正規に対し、
兵庫県飾磨郡御国野村深志野字東垣内六八七番の一
家屋番号同所一八八番
木造瓦葺二階建居宅 一棟
建坪 十六坪外二階坪十坪五合
附属
木造瓦葺二階建居宅 一棟
建坪 八坪外二階坪四坪五合
木造瓦葺平家建物置 一棟
建坪 三坪七合五勺
について神戸司法事務局姫路出張所昭和二十四年五月十四日受付第三二一八号を以てなされた抵当権設定登記の抹消登記手続をなすべし。
原告桜井早苗の請求はこれを棄却する。
訴訟費用中原告桜井早苗と被告との間に生じた分は同原告の負担とし、原告桜井正規と被告との間に生じた分は被告の負担とする。
二、事 実
原告等訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決並びに、「主文第一項記載の訴外江見康興が被告に対し負担する債務について、原告桜井早苗は連帯保証債務を負担しないことを確認する、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、
「訴外江見康興は昭和二十四年五月十三日被告より無尽契約に基く金員借用をなし之が掛戻債務として被告に対し主文第一項記載の如き債務を負担したのであるが、その際江見康興は、被告との間に、代理権なきに拘らず、原告両名を代理して、右債務について原告両名の連帯保証契約を締結するとともに、原告桜井正規を代理して、右債務担保のため原告桜井正規所有の主文第二項記載の不動産について抵当権設定契約を締結し、主文第二項記載の通りその登記手続を完了した。
しかし原告桜井早苗は、本人として又原告桜井正規の親権者として前記連帯保証契約、抵当権設定契約の各締結について、江見康興に代理権を授与したことはないから、右契約はいずれも無効であり、抵当権設定登記は、無効の抵当権に基き且つ江見康興が原告桜井正規の親権者である原告桜井早苗の印鑑を盗用して偽造した原告桜井早苗名義の委任状に基きなされた無効の登記である。仮りに原告桜井早苗が、本人として又原告桜井正規の親権者として、前記連帯保証契約、抵当権設定契約の各締結について、江見康興に代理権を授与したとするも原告桜井早苗が自ら連帯保証債務を負担するに当り、子である原告桜井正規が同一債務について、連帯保証債務を負担し、その所有の不動産について抵当権を設定する行為は民法第八百二十六条に所謂利益相反する行為に該当し、無権代理行為として無効である。
よつて、原告桜井早苗は、被告に対し、前記連帯保証債務を負担しないことの確認を求めるため、原告桜井正規は、被告に対し、前記連帯保証債務を負担しないことの確認と、前記抵当権設定登記の抹消登記手続をなすことを求めるため、本訴に及んだ。」
と述べた。<立証省略>
被告訴訟代理人は、「原告等の請求を棄却する、訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、答弁として、「原告等主張の事実中、訴外江見康興が、昭和二十四年五月十三日、被告より無尽契約に基く金員借用をなし、被告に対し主文第一項記載の如き債務を負担したこと、江見康興が、右金員借用の際被告との間に、原告両名を代理して、右債務について連帯保証契約を締結するとともに、原告桜井正規を代理して、右債務担保のため、原告桜井正規所有の主文第二項記載の不動産について抵当権設定契約を締結したこと及び主文第二項記載の抵当権設定登記がなされていること、は認めるが、その余の事実は否認する。
原告桜井早苗は、本人として又原告桜井正規の親権者として、前記連帯保証契約、抵当権設定契約の各締結について、江見康興に代理権を授与したものにして、右契約はいずれも有効である。
原告等主張の抵当権設定登記は有効の抵当権に基き且つ江見康興が原告桜井正規の親権者である原告桜井早苗より授与された権限に基いて作成した原告桜井早苗名義の委任状に基きなされた有効の登記である。
本件金員借用の目的は、原告両名を扶養していた江見康興と、原告桜井早苗とが、商売をなす資金を得るためである。従つて原告桜井早苗の本件連帯保証債務負担行為は原告両名の生活維持のためになされたものであるから、原告桜井正規の本件連帯保証債務行為と本件抵当権設定行為はいずれも、子と親の共同の利益のための行為であつて、利益相反する行為ではない。」
と述べた。<立証省略>
三、理 由
原告等主張の事実中、訴外江見康興が昭和二十四年五月十三日被告より無尽契約に基く金員借用をなし被告に対し主文第一項記載の如き債務を負担したこと、江見康興が、右金員借用の際、被告との間に、原告両名を代理して、(代理権限の有無は別として)右債務について連帯保証契約を締結するとともに、原告桜井正規を代理して(代理権限の有無は別として)右債務担保のため、原告桜井正規所有の主文第二項記載の不動産について抵当権設定契約を締結したこと、及び主文第二項記載の抵当権設定登記がなされていること、は当事者間に争がない。
よつて先ず、右各契約締結につき江見康興に対し代理権授与行為があつたか否かを判断する。
成立に争ない乙第五号証、証人稲岡房次の証言により成立を認め得る乙第二号証に、証人稲岡房次の証言、証人江見康興の証言(第一、二回)を綜合考察すれば、当時原告桜井早苗と江見康興とは同棲していたものであるところ、右両名は被告より資金を借受け之に依り共同して商売を始めようと協議し原告桜井早苗は右資金借受けにつき之が交渉手続等一切を右江見に委任し且つ原告桜井早苗は原告桜井正規の親権者として桜井正規所有の本件不動産を之が担保の為抵当に入れることを承認し自ら村役場に赴き自己の印鑑証明書の交付を受け之を自己の印鑑と共に右江見に交付したことを認めることができる。右認定に反する証人武末良市、同桜井真利子、同金内つたゑ、同中村みち子の各証言、原告桜井早苗本人訊問の結果は、いずれも信用できないし他に右認定を動かすに足る証拠は見当らない。
然らば斯る情況の下に於ては反証のない限り原告桜井早苗は右資金借受けにつき原告桜井正規の親権者として桜井正規所有の本件不動産に抵当権を設定することの代理権を右江見康興に附与したことは勿論原告桜井正規の連帯保証並に原告桜井早苗自身の連帯保証についても暗黙の裡に右江見に之が代理権を附与したものと認めるを相当とする。
従つて原告桜井早苗の本件連帯債務負担行為は有効に成立したものといわなければならない。
よつて進んで、原告桜井早苗の右連帯保証行為と原告桜井早苗が原告桜井正規の親権者として為した原告桜井正規の本件連帯債務負担行為及び本件抵当権設定行為とが民法第八百二十六条に所謂利益相反する行為に該当するや否やについて判断する。
民法第八百二十六条に所謂利益相反する行為とは、単に親権者と子とが各一方の当事者となつてその間になす行為が利益相反する場合のみに限らず、親権者が他人の債務につき連帯保証債務を負担するに当り、子において同一債務につき連帯保証債務を負担し、その所有不動産に抵当権を設定する行為の如き親権者のために利益にして子のために不利益である場合をも包含するものと解釈するのが相当である。
ところで本件に付之を見るに、上記認定の通り、原告桜井正規の本件連帯保証債務負担行為と本件抵当権設定行為とは、親権者である原告桜井早苗が、江見康興の被告に対する債務につき、連帯保証債務を負担するに当り、同一債務につき、なされたものであるから、民法第八百二十六条に所謂親権者と其の子の利益相反する行為に該当するものといわなければならない。
被告は、原告桜井早苗の本件連帯保証債務負担行為は、原告両名の生活維持のためになされたものであるから、原告桜井正規の本件連帯保証負担行為と本件抵当権設定行為とはいずれも、子と親の利益相反する行為でないと主張するけれども、原告桜井早苗の本件連帯保証債務負担行為が、専ら子である原告桜井正規の生活維持のためになされたものであるならば格別之が同時に原告桜井早苗の利益の為になされたものであると主張する以上原告桜井正規の右両行為は親権者のために利益にして子のために不利益な行為であるといわなければならない。従つて被告のこの点の主張は採用できない。
従つて、原告桜井正規の、本件連帯債務負担行為と本件抵当権設定行為とは、いずれも無権代理行為に基くものとして、無効であり、被告は、原告に対し、右無効の抵当権に基きなされた本件抵当権設定登記の抹消登記手続をなすべき義務がある。
而して被告に於て原告桜井正規の右連帯保証を有効なものとして争うて居ることは被告の主張自体に徴し明かであるから原告桜井正規は右連帯保証債務を負担しないことの確認を求める法律上の利益があると謂わねばならない。
よつて原告桜井正規が、被告に対し、本件連帯保証債務を負担しないことの確認と本件抵当権設定登記の抹消登記手続を求める請求は正当であるから、これを認容し、原告桜井早苗が、被告に対し、本件連帯債務を負担しないことの確認を求める請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十三条を適用し、主文の通り判決する。
(裁判官 前川透 小西勝 谷口照雄)